1:魅死魔幽鬼夫:2010/09/10(金) 10:15:34
2:やれやれ、僕は名を失った:2010/09/10(金) 10:21:45
あの慌しい少年時代が私にはたのしいもの美しいものとして思ひ返すことができぬ。
「燦爛とここかしこ、陽の光洩れ落ちたれど」とボオドレエルは歌つてゐる。「わが青春は
おしなべて、晦闇の嵐なりけり」。少年時代の思ひ出は不思議なくらゐ悲劇化されてゐる。
なぜ成長してゆくことが、そして成長そのものの思ひ出が、悲劇でなければならないのか。
私には今もなほ、それがわからない。誰にもわかるまい。老年の謐かな智恵が、あの秋の末に
よくある乾いた明るさを伴つて、我々の上に落ちかゝることがある日には、ふとした加減で、
私にもわかるやうになるかもしれない。だがわかつても、その時には、何の意味も
なくなつてゐるであらう。
三島由紀夫「煙草」より
「燦爛とここかしこ、陽の光洩れ落ちたれど」とボオドレエルは歌つてゐる。「わが青春は
おしなべて、晦闇の嵐なりけり」。少年時代の思ひ出は不思議なくらゐ悲劇化されてゐる。
なぜ成長してゆくことが、そして成長そのものの思ひ出が、悲劇でなければならないのか。
私には今もなほ、それがわからない。誰にもわかるまい。老年の謐かな智恵が、あの秋の末に
よくある乾いた明るさを伴つて、我々の上に落ちかゝることがある日には、ふとした加減で、
私にもわかるやうになるかもしれない。だがわかつても、その時には、何の意味も
なくなつてゐるであらう。
三島由紀夫「煙草」より